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【対談】HAL ca × Yusuke Murakami|「目で聴いて、耳で観る」オーディオビジュアルで、音楽と映像の境界線を失くすコラボレーション

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RICOHのPRISM内のメディアアート作品「ANIMA」(2021年)に始まり、
新国立美術館で行われたBMW:Forwardism ”Transcendence of Digital Form”(2022年)、
「種子島宇宙芸術際」のJAXA宇宙センターにて発表されたオーディオビジュアル作品”Singularity”(2023年)、
秋田県湯沢市で行われた「犬っこ祭り」(2024年)でのプロジェクションマッピング作品”Causal sets / Ha Re”と、

ビジュアルアーティストのYusuke MurakamiとLada所属のコンポーザー / サウンドデザイナーのHAL caによるオーディオビジュアルのコラボレーションが今まで全4回行われてきた。

今回、“映像と音楽”という異なるジャンルのクリエイターそれぞれの視点で、オーディオビジュアルについての対談を行った。

お2人の出会いは?

HAL ca – RICOHさんのプロジェクト「RICOH PRISM」で制作したメディアアート作品・「ANIMA」にて、映像でYusukeさん、音楽で私が参加したことがきっかけです。

どういう流れで制作を進めていったのでしょうか?

Yusuke – 基本的に、コアとなるテーマは僕が考えて、そのテーマを元にHAL caさんが音楽で骨組みを作って、それに対して僕が映像で肉付けをしていくというイメージです。

それは音楽的なセンスや価値観が合っていないと中々難しそうですね。

HAL ca – そうですね。多くの映像作品は、映像がある程度できている中で音をつけていく方法の方が多いです。Yusukeさんと作る時は、より音楽の表現の自由度が高いので、作曲家としては産みの苦しみもありますが、嬉しいです。

Yusuke – 僕は音楽がすごく好きなのと、音楽が作品の上で映像と同じぐらい重要だと思っているので、あえて先に音楽で自由にやって頂いて、その音楽を聴いて一人の観客として驚きたいというスタンスでいます。HAL caさんのリミットをどこまでプッシュできるか?ということも僕の課題です。

ANIMAの時に、初対面でその流れで取り組むのはハードル高そうな気がします。

HAL ca – ANIMAの時は「自分の魂を再構築する」というテーマや、ストーリー構成も予めはっきりしていたので、そこから音の解釈を広げていく作業は、私にとってむしろやりやすかったです。Yusukeさんが意図している映像と鑑賞者の距離感と、私が意図している音と鑑賞者の距離感は似てると思っていて、世界や人を俯瞰で捉えるという視点が根底にあって、その中でどうやって生命感出していくか?というプロセスが一貫していると思います。Yusukeさんがこの距離感だったら、私はこの距離感でいこう、と4作品通してキャッチボールがしやすかったです。

Yusuke – 4作品の中でもANIMAが一番僕の指示が細かかったですよね。

HAL ca – ANIMAは4面 + 床面のプロジェクションと、音響は10.1chのマルチチャンネルの設計で、体験者のデータをスキャンしてビジュアルに反映するインタラクション性もあり、空間の実寸感のテストや体感の試行錯誤も含めて、15分間の作品で約半年くらい制作期間をかけました。

Yusukeさんと色々な場所でインスタレーションを制作してみて思っていることの一つに、作品が置かれる場所についての意識が強く映像に表現されていると思います。どの空間にも固有の強さもあれば制約もあり、その中で最も意味のある作品を作る必要がありますが、
その点でYusukeさんの作るビジュアルは、実際に現場で映像を観た時に「あ、これで合っていたんだ」と腑に落ちることが多くあります。

テレビとか映画など元来のメディアに比べてインスタレーション作品は、投影面の規模感や音の空間性など幅が広く、その中で音楽も引き算の美学が必要になってくる瞬間がとてもあるんですけど、その波長が作品の制作を進めるにつれてお互いだんだん合ってくるので、すごく気持ちがいいですね。最終的にそれを現場で確認した時に「合っていたんだ」という感覚に繋がるんです。

PRISM、3L|未来の価値創造R&D事業における、体験設計・音響プロデュース

Yusukeさんもその点は意識されていましたか?

Yusuke – 全然意識していなかったです。(笑)でも、サイト・スペシフィック・アートの様な映像づくりなのかな。依頼にもよりますけど、ANIMAは「映像空間を体感する、知覚を覚醒する」っていることがお題だったし、種子島宇宙芸術祭では「宇宙を感じるもの」、秋田の犬っこまつりでは「お祭りと儀式」を感じるものだったので、その場・そのタイミングでしか成立しない作品づくりをしていることになりますね。

逆に何もコンセプトが無くて、自由にやってくださいというシチュエーションだったらどうしますか?

HAL ca – 現状、Yusukeさんのコンセプトはいつもかなり広く設定してくれるので、かなり自由演技に近いです。「お祭り」とか「宇宙」とか、壮大なテーマなので。ANIMAの「魂の再構築」というテーマとか、いくらでも何してもいいようなものなので(笑)。「そこで音で何ができるのか?」と考えるのは無限の作業で楽しいですね。

Yusuke – 逆に指定が細かい場合、どのようなパターンがあるんですか?

HAL ca – 「これを観た人がこういう感情を得て欲しい」と設定しているパターンとか。それがない方が私個人の感性としては良いですね。私もYusukeさんも抽象的な表現が多いので、観る人は抽象的な作品と対峙すると、”自分と向き合う”しかなくなる。それを目指しているから、「この作品を観た人がこう思ってほしい」という発想があまりありません。感情の着地点の指定がある場合は、それはそれで別の張り合いがありますが。大海原を楽しく旅している気分とは違ってきますね。どちらかというとスポーツの感覚に近いです。来たものを打ち返すみたいな。

Yusuke – HAL caさんの音楽って、迷ってる感覚は全く無いですよね。

HAL ca – 確かにあんまり迷ったこと無いかもしれません。先にテーマとかムードフィルムとか頂いて、この海の広さを泳げるのね、と確認しながら、自由に泳いでいる感覚。作品に伸縮性があるから、自分の中にある「こういうことやってみたかった」みたいなことに常に挑戦できていると思います。

ちなみに、優劣とかではないのですが、”作品として”4作品の中でお気に入りの作品はありますか?

HAL ca – 4作品通して、だんだん音楽と映像の境界線がなくなってきている感覚はありますね。それって音と映像のタイミングが合っているとかそういう単純な話しではなく、「目で聴いて、耳で観る」の様なクロスフェードしたものを目指しているので。回を重ねるごとに良い塩梅になってきていると思います。

Yusukeさんはどうですか?

Yusuke – それもよく分からないです。(笑)毎回違うことをやっているからっていうのもあるし、良くなりすぎることの弊害もあるなと思うし。僕としてはいつまでもHAL caさんに驚かせてもらいたい一人ですね。

HAL ca – そういう意味では毎回全く違うものを作ってますよね。ひとつ一貫していることは、Yusukeさんは構成がある / ないでいうと”ある”方なので、出自がクラシック音楽の私にとっては、構成に意味が存在する作り方は自然体のまま筆が進みます。

Yusuke – 他の作品だとクライマックスが無い場合もあるんですか?

HAL ca – あります、音楽のジャンルにもよるけれど、映像の構成も人によって全然違いますね。映像の組み立て方はとても音楽的だと感じることが多くて、そのテンポ感が一定の方もいます。そういった意味では、映像と音が持つ推進力は、互いにシンクロするかコントラストするか、いつも意識している気がします。Yusukeさんと制作するときは起承転結が同じベクトルを向いているのでやりやすいですね。4作品通して共通していることでもあります。

Yusuke – 過去の作品をふり返っていて最近気づいたんですが、僕の作品には必ず「最後のクライマックス」と「トンネル」があるんですよね。

それは何ででしょうか。

Yusuke – 分からないです。(笑)でも毎回、トンネル抜けてクライマックス迎えてますね。元々ニューヨーク大学のフィルム科だったので、起承転結を学んだことがベースにあるのかもしれません。それか、僕の中にある日本文化的な「序破急」みたいな感覚があるのかもしれないです。

HAL ca – どうしても出自には良い意味で逆らえないですからね。クリエイターもそうだし、プロデューサーもそうだし、どの方と仕事してもそれは感じます。

出自もそうだし、原体験とかで価値観が決まってきますよね。何か音楽の原体験で印象的なことはありますか?

HAL ca – 幼少期に塾に通っていたんですけど、その塾は100点を取れるまで同じテストをやり続けて帰れないシステムで。そのドリルの丸つけを先生がしてくれている音で、100点のとつける時の音が「シャンシャカシャンシャカシャンシャン」みたいなリズムだったので、そのリズムが遠くから聞こえると「あ、帰れるな」ってなるんです。それが”音楽じゃない音を音楽として捉えた原体験”なんですけど。(笑)それから、「この道はこういうリズムが聴こえるな」とか、「こういう環境では、こういう音のレイヤーが存在してるな」とか、意識するようになったきっかけですね。それは今でいうフィールドレコーディングしたり、ノイズや人の声を使ったりする感覚と近いです。

感情とか抽象的なものを音で表現するにはそういう感覚が必要なのかもしれないですね。Yusukeさんは、そもそも映像の道に進もうとしたきっかけはなんだったんでしょうか。

Yusuke – 元々は絵を描くのが好きだったんですが、映画も好きなので、ニューヨーク大学のフィルム科を志望してました。ただ入学時に枠が埋まってて、1年目はアニメーション学科を受講したんです。その時に最初に取り組んだストップモーションがすごく楽しかったので、それが映像にハマったきっかけです。2年目からはフィルム科でフィルムもテレビについても学びました。そしたら在学中にすぐ賞(Student Academy Awards:National Finalist, ASIFA-EAST Animation Festival:Student Films First Place)がとれて天狗になっちゃって。(笑)モーショングラフィックやデザインにも興味があったので、卒業後は日本でウェブデザイナーをしながら、映像やアニメーションが動くシステムを構築するプログラミングの基礎を学びました。その後に英国のロイヤルカレッジオブアートで修士を取り、Hingston Studioで8年間従事しました。

日本からイギリスに移住したのは思い切った行動ですね。

Yusuke – 映像と同じぐらいデザインに興味もあったので、イギリスで勉強したいと思ったんです。

最近の仕事で印象に残っているものがあれば教えてください。

Yusuke – NTSの企画で、∈Y∋(BOREDOMES)さんとコラボレーションで「ICA London」というミュージアムで行ったライブのオーディオリアクティブVJは、僕の中での良い転機になりました。ライブ出たことで色々お声掛けもいただけましたし。

∈Y∋さんはHAL caとはまた違う方向性の音楽の方ですよね。

Yusuke – ∈Y∋さんとは、HAL caさんと同じように、「映像は自由にやってください」とのことで制作しました。本番の前日に映像を見せたら、「すごく良いですね」と褒めていただいて。自由にやった方が面白いなと思いました。

海外でも様々なアーティストとコラボされていますが、日本でHAL caを何度もピックアップしていただいてる理由はなんでしょうか。

Yusuke – 音楽にかぎらず映像やデザインなんでもですが「自由にやってください」と言って自由にやってくれる人って、実は日本にあんまりいない印象です。もっとガチガチにディレクションしてくれた方がいいっていう人は日本では多い気がします。HAL caさんはそこを自由に打ち返してくれるので、僕も逆にインスピレーションをもらって作品に反映しています。あと、HAL caさんの出自がクラシックがベースだからこそ、表現の幅が広いと思います。

VJって皆がライブで観てるので、プレッシャーがすごそうですね。

Yusuke – 皆が生で観てるのもそうだし、寿司職人みたいに仕込みまくってライブに臨まないといけないので、仕込むために毎日∈Y∋さんのライブの楽曲を朝から晩まで聴いていました。毎日胸の動機が止まらない(笑)。でも世界的なアーティストとコラボすることで、学びと刺激が多いので楽しいです。

最後に、今後やってみたいことがあれば教えてください。

Yusuke – 僕はコミッションワークでないオリジナル作品を制作したいです。

HAL ca – 私も昨年からオリジナル作品をリリースし始めたので、今後も続けて行きたいですね。HAL caとしてインスタレーションの作品も発表できたら嬉しいです。

ありがとうございました。

YUSUKE MURAKAMI

ロンドン拠点のビジュアルアーティスト。
3AND Creative Director / Partner

米国のNew York Universityの映画科学士取得。英国のRoyal College of ArtでVisual Communication科修士取得。
英国のHingston Studioに8年従事し、2020年にデザイン集団、3ANDをロンドンで立ち上げる。
BMW、ICA London、∈Y∋ (BOREDOMS)、NTS RADIO、DIESEL、W1 CURRATE、RICOH 3L、ブルジュ・ハリファなどとコラボレーションをし、映像からデザインまで幅広く世界で活動する。

www.yusuke-m.net

https://www.threeand.net

Instagram
https://www.instagram.com/yusuke.murakami3/

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